難しい難しいとネットで書かれていたので,覗いてみました.昨年の阪大物理第1問を焼き直したかのような問題ですね.あと,その流れで書いていた以下のネタも少しは参考になるかと思います.
miwotukusi.hatenablog.jp
この問題,ベクトルを用いるところ,高校物理での考え方(原理,公式)を用いるところ,初等幾何(数学I程度)を用いるところと使い分けをしないといけないのが,いやらしいところだと思います.あと,比較的長文の中に書かれているところどころに「それ,何を言ってるの?」と言いたくなる問答が出てきます.ここもいやらしさに輪をかけている感じがします.そのあたりを一つずつ,紐解いていこうと思います.なので,量が多いです.すみません.
以下,ベクトル表現を使っていきますが,以下のようにおきます.重心からの相対速度は,大文字かつ添字にGをつけておきます.
粒子A | 粒子B | |
衝突前の速度 | ||
衝突後の速度 | ||
衝突後の重心からの相対速度 |
衝突前の相対運動:(ア)〜(ウ)
衝突前の粒子A, Bの速度ベクトルはそれぞれ (y成分も与える形で書いています)と与えられます.
(ア)
重心Gの速度ベクトルは
と書けるので,これから であり,これは衝突前後で変わりません.
(イ)
『衝突前のGから見たAの相対速度』も,単なる引き算なので,
(ウ)
あえて一般的なベクトルの式として書いてしまうと,
より大きさは 0となります.これは,衝突後でも同様に成り立ちます(重心の速度ベクトルの式も含めて,粒子の速度ベクトルに衝突後を表す「'」をつけて計算すればよい).
この(ウ)がベクトルで表せていると,次の作図が少しは楽になるかと思います.
衝突の直後の相対速度:解答図(I-A)
(順番が前後しますが,最後に挙げている図を見ながら読んでもらえばよいかと思います.)
(ウ)で導いた式を衝突後のものに書き換えて,さらにそれぞれの重心からの相対速度自身で書き換えると,
これから点G(重心の速度ベクトルの終点)が線分AB上にあり,かつ に内分していることがわかります.そして,もともと重心の速度ベクトルは x軸に沿ったものでしたので,線分ABと x軸との交点が点Gとなります.
さらに,なので,がそのベクトルを表しています.同様に,となります.
同じ式からですが少し見方を変えると、衝突後の重心の速度ベクトルの式を書き下すと,内分点の公式の形になっていることがわかります.
衝突後の重心系の運動量:(エ)
もう先に答えを書いてしまっていますが,この和も 0となります.
ここから「何言ってるの?」な文章が出てきます.
衝突後の速度:(オ)〜(キ)
(オ)
『粒子同士が弾性衝突をする場合,衝突前後で一方から見た他方の相対速度の大きさは変化しないので』より,「粒子Bから見た粒子Aの相対速度の大きさは のまま変わらない」と読み替えることができます.そして、衝突後におけるこの相対速度の大きさは図中の線分ABの長さとして表されています.その線分の が の大きさとなるので,
ちょっと補足
『粒子同士が弾性衝突をする場合,衝突前後で一方から見た他方の相対速度の大きさは変化しないので』について補足をしておきます.弾性衝突なので「反発係数の式で とすれば」となりそうですが,あの式は 1次元の衝突について成り立つ式なので使えません.ここでは,「弾性衝突ならば力学的エネルギーは保存する」を使います.もう一つの式である運動量保存則と書き並べると,
さらに,相対速度の大きさを表す式として,
を用います(衝突後の「'」付きの式も).
手順は以下のとおりです.
まず,運動量保存則の式(2)の両辺を 2乗します.次に,現れた速度ベクトルの内積に式(3)を代入します.すると,
2行目で消えているところは,力学的エネルギー保存則の式(1)から与えられます.ここでは一般的なベクトルの式で導いているので,普遍的な関係式となります.*1
(カ)と(キ)
(オ)の結果から,三角形OGBは の二等辺三角形であることがわかります.よって,となります.
さらに,『解答図(I-A)に描いたGの速度を表す矢印の終点から衝突直後のBの速度を表す矢印に垂線を下ろすとわかるように』は,点Gより線分OBに垂線を下ろした足を点Mとすれば,となるので,
衝突後の運動エネルギーの比:(ク)〜(コ)
(ク)
単純に計算をします.
- 衝突前の Aの運動エネルギー:
- 衝突後の Bの運動エネルギー:
よって,
(ケ)
相加・相乗平均の関係を使います.より となります.等号成立が最大値を与えるときとなり,のときとなります.
(コ)
『Gの速度を表す矢印の終点の位置の特性』って何?となるのですが,とりあえず を代入すると,
- 重心の速度の大きさは,
- 解答図(I-A)と(オ)の内容(内分比が 1:1)から,
これら 3つの速度ベクトルの大きさが等しくなります.すると,図のとおり線分ABを直径とする円周上に点Oがある(点Gは外接円の中心)ので,円周角の性質からとなります.
この衝突後の速度ベクトルの関係も,上の「ちょっと補足」と同様に力学的エネルギー保存則と運動量保存則から導くことができます.を代入して整理した式は,
式(2)'の両辺を 2乗して,式(1)'を代入すれば,が導かれます.
最後に,『ただし,衝突後に Aが静止することなく運動し,この角が定まる場合を考える』については,「正面衝突」をすると Aは静止するので,そのようなケースは考えないということを記しています(ビリヤードの玉突きの様子).上の内積が 0の式には,Aが静止する場合も含まれています*2.
相対速度というところで引っかかる人も多いかもしれませんが,いまの重心系の問題では「機械的に を引く」としておけばよいかと思います.なるだけベクトルで考えた方が答えは導きやすいのかな?とも思います.